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「硝石集め人 (ソルトピーダー・マン)」

 あなたの使っているその火薬は、もしかするとソルトピーター・マンが集めたものかもしれない!


 今も昔も、戦争を始めるというのは一苦労だ。

 古今東西 どんな軍隊であっても、しっかりとした「兵站(へいたん)-"Logistics"」の準備なしに勝利をおさめるのは不可能と言っても過言ではないだろう。「兵站」というのは、戦争に参加する軍隊のために必要となる物資を事前に計算し、事前に集め、必要なときに必要な場所へと輸送することをいう。

ナポレオン1世の部下であり、後に「The Art of War」という軍事学の教科書を書き表したアンリ・ジョミニも、その本の第6章で、戦略-戦術と並ぶ戦争の重要な3本柱の一つに、この「兵站」を挙げている。

 ちなみに"Logistics"の語源は、「しっかりと計算して行動する」という意味のギリシャ語であり、この事前の計算がしっかりと建てられていなかったがゆえに、戦闘は有利に進めていたのに補給が追いつかないで自壊した軍隊というのも、ハンニバルしかりナポレオンしかり、歴史上の実例をあげると両手の指だけでは足りないものである。


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 ところで、ひとことで補給を準備するといっても、いったい何を用意する必要があるのだろうか。
まず最初に思いつくのは、なんといっても兵士たちの「食料」だろう。
"An army marches on its stomach"(軍隊を進ませたければ、まずはその空っ腹を満たせ!)
この英語の慣用句は、まさに真理!
食べ物の恨みは恐ろしい。なにしろ、古代中国では自分の戦車の御者に干し肉をやらなかったせいで、敵軍の捕虜になってしまった将軍もいたくらいだ。もう一度言うが、食べ物の恨みは恐ろしい。

 軍馬の「秣(まぐさ)」も忘れてはならない。
これは、現代の軍隊でいうところの、戦車や戦闘車両の燃料といったところか。
食べるものがないのに戦ばたらきをしろ、といわれてはさすがの馬とて、ウマい働きはできないはずである。なにしろフル装備の騎士だと、その鎧だけで30~40kgあったというのだから。
余談だが、秣にたっぷり水を含ませて食わせていると、軍馬はスタミナ不足になる。その上、買いあげてくれる時には重さが増えているので、高値で買ってもらえることから、中世の戦争時に占領地の民がやったサボタージュ戦法の一つでもあった。

 ほかにも、煮炊きをするための薪だの、戦闘でつかう矢だのといった諸々も計算していくと、半端じゃない量の物資が必要となるのは、ちょっと考えただけでもよくわかるだろう。最も、それらの物資の多くは現地での調達・補給(素直に代価を払うかどうかは別として…)に頼っていたわけでもあるのだが。

 これらの生活必需品(?)のほかにも、ルネッサンス期ごろの戦い方の変化によって、重要な役割を占めるようになってきたものがある。「火薬」である。

 14世紀後期に、火薬を粒子状にすると発火もしやすく爆発力も上がり、輸送や取り扱いも容易になるということが知られるようになった。これを"Corned gunpowder"(和訳だと「粒状火薬」とでもなるかな?)という。

16~17世紀初頭にかけてヨーロッパの軍隊で流行した戦法は、イスパニア発祥の「テルシオ方陣」である。
詳しい説明は省くが、これは銃兵と槍兵を組み合わせた野戦方陣であり、イスパニアはこの陣形戦法を用いヨーロッパにおいて(何度も破産しながらではあったが)戦闘を有利に進める事が出来たのである。また、各国はこの「テルシオ方陣」を破るために銃兵部隊の改良を行い、戦争の主役はかつての騎士達から銃を持ち訓練された兵士達へと移っていく。そして、国民皆兵・常設国軍の設立という近代国家への改革に繋がるのだが、それはまた別の話。

 さて、ここにひとつの資料があるのだが、それによると「マスケット銃の弾丸を1発発射するのに25g」、「大砲から砲弾を発射するのには約400g」の火薬が必要になるそうだ。それを踏まえた上で考えていただきたい。
スペインのテルシオ方陣の1軍団 銃兵が800人前後とすると、全員が弾丸1発を発射するのにそれだけで火薬が最低20kg必要になる。当然、1発撃って終わりなんてわけないし、護身用の短銃に使う火薬なども含めると半端じゃない量の火薬を用意して置かなければならないわけだ。また。海戦の主役が大砲になると、その分消費される弾薬・火薬の量も桁違いに増えていく。

 さらに重要な点だが、この火薬というシロモノは他の物資と違って、「現地調達」(強盗・略奪のお上品な言い方)ができないわけである。普通に考えて、火薬を大量に常備している家がそこらに点在しているほうがどう考えてもヤバい。

 この当時使われていた火薬を、「黒色火薬 "black powder"」という。
硝石(酸化剤)が酸素を発生させ、それが燃焼・膨張、可燃物の炭素と結びついて爆発する。色が黒いのは、可燃物に木炭が使われているためである。この黒色火薬、火気・衝撃にむちゃくちゃ弱い、湿気るとダメだ(木炭だからよく水分を吸い取る。靴の中敷きとかによく使われているだろう)とか、爆発するときに硫化水素が出る(ラリる)などの問題点もあって、その後は使われなくなるのだが、まぁこの当時の銃火器戦の主力アイテムだったことだけ覚えていてほしい。そして、その材料に硝石が使われていたことが、この話の重要な部分だ。

 ところがヨーロッパ、特に北西部では天然物の硝石はほとんど採れない。スペインは自国で産していたようなのだが、テルシオのような銃兵部隊の運用が始まったのもこのあたりが原因となるのかもしれない。
では、自国内で採れないところはどうするか。当然輸入に頼るわけだが、場合によっては自分の敵国になるかもしれないところに、むざむざと重要な戦略物資をくれてやるようなヤツは平和ボケした日本くらいだろう。そんな不安定な状況んび頼るよりは出来る限り自国内でなんとかできれば…となるのは、至極もっともなことだ。こうして、火薬をつくるのに不可欠な硝石を国で管理しようというという土台が出来上がる


 実は、硝石は中国漢方では薬になる。その効果は、「利尿作用」。
で、面白いことに、その硝石は尿や便の染みこんだ土壌から採れるのだ。
地中に染みこんだ排泄物(動物・人間を問わず)は、長い時間と働き者の微生物たちによってカルシウムと硝酸カリウムに分解される。この硝酸カリウムこそ硝石の主成分なのである。

 そこで、登場したのが「ソルトピーター・マン(硝石集め人)」たちである。

 「ソルトピーター・マン(硝石集め人)」の仕事は、その名の通り「硝石を集めること」である。
先ほど述べたように、硝石の主成分である硝酸カリウムは糞尿の染みこんだ土壌から採れるわけだから、家畜小屋や堆肥倉庫、公衆便所や個人のトイレ…こうした場所を探して地面を掘り、貴重な硝石を回収する連中。
掘った土に硝石が含まれているかどうかは、その土を舌に乗せてみればよい。塩辛く、泡が出て冷たく感じれば、それは硝石が含まれている証拠だったらしい。
それにしても、匂いに敏感な人にはお勧めできない仕事である。

 また、人目を気にするような繊細な人はこの仕事には向いていなかったようである。
重要な戦略物資を回収するために、イギリスやフランスでは硝石集め人には、「どこの家にも無断で入って、勝手に地面を掘る」特権が与えられていた。当然のことながら、この特権を笠に着て無理難題を押しつける輩も数多くいたようである。掘ったら掘ったままにしてさっさと次の家に向かう、まるでイナゴのような連中もいたようだ。
これこそが、硝石集め人の正体だったのだ。

 あなたが使っているその火薬も、もしかしたら彼らによって(どこかのトイレから…)集められた貴重な硝石を使って作られたものかもしれない。

おしまい





 以下の本を、参考資料に用いました。



 なお、江戸時代の加賀藩における領内での火薬制作行程、および流通・備蓄に関する体系的な研究が(たぶん金沢大だったと思うのですが…記憶が曖昧でして)行われていました。海外からの輸入が途絶えた中で、重要な戦略物資をどのように自国領内で生産し運用していたのかを知ることの出来る非常に貴重な研究となっています。もし、今回の記事で興味を持っていただけた方は、機会があれば論文資料などご一読されることをお勧めいたします。


追記):ちょっと気になってサイニィ(http://ci.nii.ac.jp/)で調べたら、やはり金沢大の板垣英治先生の研究でした。サイニィで「加賀藩の火薬」、または「硝石の舎密学と技術」などを調べてみられると、面白いかもしれませんね。
なお、サイニィは教育関係者以外は登録にお金がかかるはずです><
学生だと、学内図書館とかが登録契約していることもあります。

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Comment

2010.12.13 Mon 14:32  |  

おー、ひさしぶりの更新うれしこ!w

今年読んで印象に残ってる小説のなかで、たまたま硝石や火薬に詳しい人物がキーパーソンになっているものがあったので、もし読んでなければぜひオススメ!

 マイクル・クライトン 『パイレーツ―掠奪海域』 早川書房
 コーマック・マッカーシー 『ブラッド・メリディアン』 早川書房

 『パイレーツ』には火薬関連の薀蓄もけっこう出てきて、さすが娯楽小説の大家って感じ。スピルバーグが映画化予定だったかな、『アミスタッド』の実績あるし期待大。『ブラッド~』では、荒くれ者たちに呼びかけて、硝石を含んだ土におしっこをさせたあと、それを練り練りして火薬に仕上げるシーンなんかが出てきます。小説としてはこっちのが傑作。たしかに舐めてた気がする、おしっこかけたあとにね!


 それはそうとロジがない軍隊っていうと真っ先に思い浮かんじゃうのが第二次大戦の日本軍だったりするけど、実は現代の日本人が抱える一つの特徴にもなってるんじゃないかな。欧米人はよく日本人を個がないとかナイーヴとか表現するけど、たぶん中国人やインド人との違いまで含めて考えれば、ロジがないってまとめはけっこうアリな気もする。ロジスティカルな発想があっても集団の空気の方が無前提に是とされちゃうんだよね。完全に余談だけども。

  • #fOBH/J5U
  • 小雨心
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  • Edit

2010.12.16 Thu 17:57  |  ぐっさん>

ご無沙汰しております。
あまりにも久しぶり過ぎて、ブログのID思い出せなかったのは秘密です。
ちょっと時間ができたので、なんとか日曜更新・週一くらいでなんとかできると…
いやいやハードルを上げるのはやめておこうw


マイクル・クライトンも亡くなっちゃったんだよね。
あの人の作品はジュール・ベルヌ風だと思うんですよ。
まだまだ元気に活躍していただきかったです。本当に残念。
そういえば彼を「マイクル」って言うのは、ハヤカワファンの証拠らしいよw
ぜひ、読んでみたいと思います。

で、ロジの話だけども。
大戦時の日本軍も極端な話、「補給がなくても戦える!」とは考えていなかったと思うんですよ。
実際、軍官僚(幕僚)が仕切っていたしね。
で、思うのは実際に集積された資源を輸送するという観点が上手くいってない気がします。
だから、集めた食料が前線に送られずに倉庫で腐っていた、とかいう話がよく聞かれるんじゃないかと。
ここで問題になるのは、全体的に物事を考えるよりも、失敗しないよう無難に自分の目の前の仕事だけ片付ければいいやという悪い意味での役人思考(?)ではないかと思うんです。
戦争論でも、後方と前線の連携がうまくいかせる(摩擦をなくすこと)のが不可欠だと言われてるしね。

あとはなんだろ。
アジアは結構 自然風土が豊かだから現地調達が可能だとか?
集団の空気ということでいうと、「後ろでちまちま計算なんぞしてるのは花形じゃない」みたいな感じもあるのかもしれないね。

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